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組織培養物及び効率的増殖法_文献

植物名オタネニンジン
ラテン名Panax ginseng C. A. Mey.
文献コードPanax_ginseng-Ref-9
出典(著者,雑誌,巻号頁,発行年)Shu W et al., Bull., Natl., Health Sci., 117: 140-147 (1999)
要約(和訳)植物ホルモンを用いない人参の不定胚培養を確立した。不定胚は、1/2MS培地で培養した実生の根、葉、葉柄から得られた。幼植物は、引き続き、植物ホルモン無添加培地で生育する不定胚から分化した。体細胞不定胚からのシュート形成は、光強度の影響を受けた。不定胚の増殖率と不定胚の形成率は、不定胚組織を切断して液体培地に植付け、暗所で培養することにより改善した。4年間圃場で栽培した植物の根、種子胚由来の実生及び体細胞不定胚、不定胚組織のギンセノシド含量を測定し、比較した。体細胞不定胚は、種子胚由来実生と比較し、1.7倍のginsenoside Rb1と2.3倍のginsenoside Reを含有していた。種子胚由来の苗には検出されないginsenoside Rdも不定胚に検出された。液体培地で培養した不定胚組織より、固形培地で培養した不定胚組織の方が、高いginsenosides Rd及びRg1含量を示した。Ginsenosides Rb1とRg1を含め、全ginsenoside収量は、不定胚の塊よりも、切断した不定胚組織の方が高かった。
目的体細胞不定胚形成による人参クローン植物増殖方法の開発
材料(品種,系統,産地,由来)国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用植物栽培試験場圃場栽培植物の白種子
外植片白種子
初期培養Panax ginseng c.A. Meyerの白種子(未熟胚の種子)は、75%エタノールで30秒間、次いで2%次亜塩素酸ナトリウム液(1滴/40 mLのTween20を含む)で10分間表面殺菌し、滅菌水で3回漱いだ後、0.5%ショ糖を含む0.5%寒天培地に置床し、25 ± 2℃、暗所で培養した。9-10ヶ月後、発芽が認められた。葉を除いた実生、切り取った葉及び葉柄から調製した切片は、植物ホルモン無添加(HF)、3%ショ糖、0.2%ゲルライトを含む、無機塩類濃度が半分のMurashige and Skoog培地(1/2MS)に移植し、16時間明期(弱光、9 µEm-2s-1)、25 ± 2℃で培養した。1ヶ月後、実生の根の表面、葉及び葉柄切片に不定胚組織が形成した。実生の根に形成した不定胚(Pg)、葉(Pga)及び葉柄(Pgb)に形成した不定胚は、二次不定胚を形成することにより、HF 1/2MS培地、25 ± 2'℃、16時間明期(弱光、9 µEm-2s-1)での培養が可能であった。約0.4 gの不定胚組織を新しいHF 1/2MS培地(30 mL固形培地/径40 × 130 mm培養試験管)に移植し、8週間毎に継代培養した。不定胚形成率は、Pg(実生の根由来)が最も高く、次いで、Pgb(葉柄由来)、PgA(葉由来)であった。弱光下で6週間培養した0.4 gの不定胚組織片(Pg)は、二次不定胚形成が生じ、合計82個の不定胚が得られた。引き続き、HF培地上で、不定胚の発芽とシュート分化が認められ、幼植物が得られた。 培養物あたりのシュート数は、Pgb(葉柄由来)が最も多かった。以降の実験は、最も不定胚形成数が多いPg(実生の根由来)を用いた。
シュート増殖不定胚組織(Pg)は、同様にHF 1/2MS固形培地に植付け、完全照明下(57 µEm-2s-1)、弱光下(9 µEm-2s-1)及び暗所で培養し、6週間後に不定胚形成とシュート形成の頻度を調査した。培養物あたりの不定胚数は、不定胚組織を暗所で培養した時が最適であった。完全照明下は不定胚からのシュート形成に適していた。HF 1/2MS固形培地で育成した不定胚組織より塊片(10-20 mm)及び小片(1-2 mm)を調製し、固形培地(30 ml/径40×130 mm培養試験管、培養条件は前述と同様)には0.4 g、液体培地(50 ml/100 ml Erlenmeyer flask、25 ± 2'℃、暗所、100 rpmで振とう)には0.5 g植付けて培養し、6週間後に生育(新鮮重量)及び不定胚形成率を調査した。1/2ME液体培地での不定胚の生育量は、固形培地に比べて2.2倍高かった。新鮮重量の増加は、植付け片を小片にすることでも認められた。液体培地での不定胚形成数は、固形培地での形成数の2倍であった。液体培養物あたりの体細胞不定胚形成数は、細胞塊を植付片とした場合は88で、小片を植付片とした場合は211に増加した。これらの結果は、液体培養が優れていることを示している。体細胞不定胚の生育と形成頻度は、植付片を1-2 mmの細胞小片とすることでも増加した。不定胚組織小片(0.5 g)を1/2 MS液体培地(50 ml/100 ml Erlenmeyer flask)、照明下 (16時間明期、 68 µEm·-2s-1)又は暗所で培養した(25 ± 2℃、100 rpmで振とう培養)。6週間後、生育(新鮮重量)と体細胞不定胚形成を調査した。暗所の生育量は、照明下より1.5倍高かった。暗所での6週間の培養で、フラスコあたりの植付片0.5 gから、7.7 g(約15倍)に生育した。しかしながら、培養物あたりの体細胞不定胚数は、照明下は236、暗所は231で、同じであった。
発根HF培地上で、不定胚の発芽とシュート分化が認められ、幼植物が得られた。 培養物あたりのシュート数は、Pgb(葉柄由来)が最も多かった。オタネニンジン の幼植物は、鉢に移植しファイトトロン(25 ± 1 ℃, 35 µEm-2s-1)での馴化が可能であった。
馴化条件
鉢上げ・定植
栽培条件
再生植物体の形質圃場栽培4年のオタネニンジンの根のギンセノシド含量を種子胚由来実生及び体細胞不定胚のギンセノシド含量と比較した。発芽後2ヶ月の実生と1/2MS液体培地で2ヶ月間培養した体細胞不定胚は、圃場栽培4年の植物の根よりも少ないギンセノシド類を含有していた。しかしながら、体細胞不定胚は、種子胚由来の実生に比べて、1.7倍のginsenoside Rb1と2.3倍のginsenoside Reを含有していた。種子胚由来の実生には含まれないginsenoside Rdが、体細胞不定胚に検出されたことは興味深い。体細胞不定胚のginsenoside Re含量は、圃場栽培4年の根の含量に匹敵した。固形培地で生育した不定胚組織は、液体培地で生育したものよりも高いginsenosides Rd及びRg1レベルを示した。Ginsenosides Rc及びReは、液体培養と固形培養間での差はほとんど認められなかった。細胞小片を植付片とした培養物のginsenosides Rb1及びRg1レベルは、細胞塊を植付片とした培養物よりも高かった。この傾向は、液体培養と固形培養の両方で観察された。細胞小片を植付片とした固形培養のginsenoside Rg1含量は、圃場栽培4年の根の含量と同等であった。細胞小片を植付片とした培養物のギンセノシド収量は、細胞塊を植付片とした培養物の収量よりも顕著に高かった。
分析した成分ギンセノシド類(ginsenoside Rb1、ginsenoside Rc、ginsenoside Rd、ginsenoside Re、ginsenoside Rg1)
成分の抽出法凍結乾燥した植物試料(50 mg:圃場栽培4年の根、発芽後2ヶ月の実生、1/2MS液体培地で2ヶ月間培養した体細胞不定胚、1/2MS培地で6週間培養した不定胚組織)は、メタノール7 ml、70℃で1時間、抽出した。この操作は3回繰り返した。合わせた抽出物は、遠心後、上清を取り、蒸発乾固させた。残渣は2 mlの水に溶解し、Sep-Pak C18 cartridge (MILLIPORE®)に負荷した。Cartridgeは、水 5 ml、30%メタノール 5 mlで洗浄後、メタノール 5 mlで溶出させた。蒸発乾固後、残渣をメタノール1 mlに再溶解させフィルター濾過した。
分析法抽出されたGinsenosides Rb1、Rc及びRdは、HPLC [column: TSKgel ODS 80TS, 4.6 mm i.d. x 150 mm (TOSOH); flow rate: 1.1 ml min-1; temperature: 40 ℃; solvent: acetonitrile / water (3/7); detection: UV 203 nm; retention time for ginsenosides: Rb1=13.01 min, Rc=16.73 min, Rd=35.01 min]で分析した。Ginsenosides Rg1及びReは、以下のいずれかでHPLC分析した。HPLC1:column: Wakosil II ODS 3C18 HG, 4.0 mm i.d. x 100 mm (Wako Chemicals, Japan); flow rate: 0.45 ml min-1, temperature: 40 ℃; solvent: acetonitrile / water (2/8); detection : UV 203 nm; retention time for ginsenosides: Rg1=33.34 min, Re=35.10 min. HPLC2:column: Hibar Mightysi l RP-18, 4.6 mm i.d. x 150 mm (MERCK); flow rate: 0.75 ml min-1; temperature: 40 ℃; solvent: acetonitrile / water (2/8); detection: UV 203 nm; retention time for ginsenosides: Rg1=29.03 min, Re=30.40 min.
備考