薬用植物総合情報データベース

組織培養物及び効率的増殖法_文献

植物名イトヒメハギ
ラテン名Polygala tenuifolia Willdenow
文献コードPolygala_tenuifolia-Ref-1
出典(著者,雑誌,巻号頁,発行年)尾嵜誠・岡本誉充・奈良女昭・神田博史・藤野廣春・鈴木正一・吉崎正雄・佐竹元吉 植物組織培養12: 97-98 (1995)
要約(和訳)イトヒメハギ(Polygala tenuifolia Willd.)は, 中国東北部, 華北東部地帯に自生するヒメハギ科の多年生草本で, その根は生薬「遠志」として利用されている. 薬効としては, 去疾, 強壮作用が認められている他, 神農本草経上品には, 「智恵を益し, 耳目を聡明にし, 物を忘れず, 志を強くし, 力を倍す」と記されており, 最近,その成分に関する研究が盛んに行われている.組織培養に関しては, 同類生薬である「セネガ」(ヒロバセネガ)で下胚軸由来カルスからの個体再生が報告されているが, イトヒメハギでは今までのところ, 栽培研究は行われているものの, 培養についての報告はなされていない. そこで今回, イトヒメハギの大量増殖を可能とする栄養繁殖法の確立を目的として, 実生の葉切片由来カルスの組織培養系を検討し, 個体再生に適した培養条件が明らかとなったので, 以下にそれらの結果を報告する.
目的イトヒメハギの大量増殖を可能とする 栄養繁殖法の確立
材料(品種,系統,産地,由来)富山医科薬科大学薬学部付属薬用植物園にて保存している株より採取した種子
外植片種子
初期培養富山医科薬科大学薬学部付属薬用植物園にて保存している株より前年採種した種子を, 5℃, 2ヵ月間暗所で低温処理した後, 70%エチルアルコールで1分間, ついで有効塩素5%の次亜塩素酸ナトリウムで10分間,さらに70%エチルアルコールで1分間浸漬して滅菌した.この種子を滅菌水で3回すすいだ後, 植物ホルモン無添加のMurashige and Skoog培地(pH 5.7, gerlite0.2%, 以下MS培地)に置床し, 25℃, 2500 lux(16 h light per day)下で実生を育成した.置床4~5日目ごろに発芽が見られた.
シュート増殖置床約1ヵ月後, 2~3cmに伸長した実生の葉を採取し, メスで5mm平方に切断して葉切片を作成した.不定芽の形成: 葉切片の培養は, 0, 0.02, 0.10, 0.20および0.50mg/lのNAA(α-naphthaleneacetic acid)と0, 0.02, 0.20, 0.50および0.75mg/lのBA(6-benzylaminopurine)とを組み合わせ添加したMS培地を用い, 温度25℃の暗黒下で行った.また合わせて, sucrose濃度を1%としたMS改変培地についても, 同様 の検討をすすめた. 多芽体の形成: 葉切片由来カルスより誘導された不定芽を, 多芽体の形成を目的として, MS培地の塩濃度の1, 1/2倍と, sucrose濃度の1, 1/2, 1/3倍とを組み合わせたMS修正培地それぞれに対し, BA, GA3(gibberellin A3)を, それぞれ0.02, 0.20, 2.0mg/l添加した培地に移植した.培養条件は,25℃,2500 lux(16h light per day)下で行い, 5週間おきに同一組成の培地に継代することにした. 不定芽の形成: いずれの実験区でも葉切片置床10~15日後にカルスが誘導され, その成長は1.5~2倍/5週間と, 差はあまり見られなかった. さらに約1ヵ月後には, NAA0.20および0.50 mg/lと, BA 0.20, 0.50,および0.75mg/1を組み合わせて添加した実験区で, カルス組織より不定芽が形成された.これらの実験区では 不定芽の形成に際して, sucrose 1%添加区で5~7 cmの伸長が見られたのに対して, 3%添加区ではその伸長 が不十分(~0.5cm)であった. また, 0.50mg/lのNAAと0.75mg/1のBAを添加したMS改変培地(sucrose1%)では, 単一のカルス塊(直径2~2.5cm)から2~4本と, 最も多くの不定芽が得られた. 多芽体の形成: 移植後5週間目には,GA3 0.02, 0.20 mg/l添加MS修正培地(塩濃度1,1/2, sucrose 1%)において, 多芽体の形成が認められた. これらの 実験区では, いずれにおいても不定芽の形成数は, 一本の不定芽から15本/5週間でほぼ同数であったが, 塩濃度が1/2の場合, 塩濃度が1の場合に比べて不定芽の伸長は抑えられた. その他の実験区では, BA 0.02mg/l添加区で, 不定芽の伸長が認められた以外は枯死した.
発根不定芽からの根の形成: 形成された不定芽は, MS培地の塩濃度の1, 1/2倍と, sucrose濃度の1, 1/2, 1/3倍とを組み合わせたMS修正培地それぞれに対し, 植 物ホルモンを無添加とした培地, あるいはNAA, IAA(β-indoleacetic acid), IBA(β-indolebutyric acid),GA3を, それぞれ0.02, 0.20, 2.0mg/l添加した培地に移植して, 根の形成についての検討を行った.培養条件は,25℃,2500 lux (16h light per day)下で行い, 5週間おきに同一組成の培地に継代することにした. 不定芽からの根の形成: 発根検討培地に移植後4週間目に, 0.02, 0.20, 2.Omg/lのNAA, IAAを添加したMS修正培地(塩濃度1/2, sucrose 1%)において, 不定根の形成が認められた. しかし, このうちNAA 0.02,0.20,2.0 mg/lおよびIAA 2.0mg/l添加区では, 根の 形成とともに不定芽は枯死した.根形成率は, IAA 0.02mg/l添加区で40.0%, 0.20mg/1添加区で 60.6%であり, このうちIAA 0.20mg/l添加区では,1本の不定芽あたりの発根数(6~7本), 茎葉の成長とも最も良好であった. なお他の実験区では, いずれにおいても不定根の形成は認められなかった.
馴化条件
鉢上げ・定植
栽培条件
再生植物体の形質
分析した成分
成分の抽出法
分析法
備考