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組織培養物及び効率的増殖法_文献

植物名ウラルカンゾウ
ラテン名Glycyrrhiza uralensis Fisher
文献コードGlycyrrhiza_uralensis-Ref-3
出典(著者,雑誌,巻号頁,発行年)Kojoma M et al., Plant Biotechnology 27: 59–66 (2010)
要約(和訳)ウラルカンゾウ(Glycyrrhiza uralensis)の乾燥した根及びストロンは,伝統東洋医学の中の最も重要な薬であるとともに,世界中で甘味料,矯味料として市販されている.ここに我々は,Glycyrrhiza uralensisの培養ストロンシステムの確立を報告する.培養ストロンは,1節を含む茎(腋芽あり)を0.01 mMα-ナフタレン酢酸(NAA)含有Murashige and Skoog(MS)液体培地で培養して誘導した.ストロンは,25℃,暗所で旋回培養(100 rpm)した.同濃度のNAAで最高の増殖効率(4週間で6.58倍)が得られた.ショ糖6%もストロンの増殖効率を改善した(4週間で6.34倍).GC/MS分析により,培養ストロン中にわずかな量のグリチルリチン(14 μg/g乾燥重量)が蓄積されていることが判明した.興味深いことに,培養ストロンでのベツリン酸とオレアノール酸生産量は,圃場栽培のストロンよりも多かった.0.01μM NAA含有MS固形培地(0.2%ゲルライトで固化),照明下で培養することにより,培養ストロンから不定根とシュートが再分した.再分化植物体(培養体)の根は,グリチルリチン(7,600 μg/g 乾燥重量)を生産した.我々の培養ストロンシステムは,グリチルリチンの生合成と優良な甘草クローンの効率的増殖に適している.
目的ウラルカンゾウ増殖とグリチルリチンをはじめとした二次代謝物生産研究のためのストロン培養系の確立
材料(品種,系統,産地,由来)医薬基盤研究所薬用植物資源研究センター北海道研究部圃場のG. uralensis (Accession No. 13905) の種子
外植片種子
初期培養種子を3時間水道水で洗浄し,70%(v/v)エタノールで1分間,0.02%(v/v) Tween20含有2%(v/v)次亜塩素酸ナトリウム溶液(10%市販の漂白剤)で15分間殺菌し,滅菌水で3回洗浄した.殺菌後の種子を3%ショ糖含有Murashige and Skoog (MS)培地(三栄源FFI製ゲルライト0.2%で固化,10 ml培地/径30 mm×115 mm培養試験管)に置床し,23℃,40μmol photons m-2s-1 蛍光光源下 (16 h d-1)で培養した.種子間の遺伝的なばらつきを排除するため,1ヶ月後,発芽植物体1本を選抜してクローン増殖し,以後の実験に使用した.腋芽を含む1節茎切片をKohjyouma et al. (1995)(Glycyrrhyza _glabra-Rep-1)に準じて培養した.培地は3%ショ糖,0.1μM α -naphthaleneacetic acid (NAA)含有MS培地(0.2%ゲルライトで固化)を用いた.
シュート増殖培養ストロン誘導に対するGA3及びNAAの効果を調べるため,腋芽のある茎切片(1 cm長,15切片/培養瓶)を3%ショ糖含有MS液体培地(100 ml/径80×102 mm培養瓶)に植付け,26℃,暗所,100 rpmで旋回培養した.培地には,GA3 (0, 0.01, 0.1, 1, and 10 μM) 又はNAA (0, 0.01, 0.1, 1, and 10 μM)を添加した.培養2週間後,同条件の新しい培地に切片を移植し,更に2週間後(合計4週間後)に観察した.0.01 μM NAAが最も高効率(40.0%)で培養ストロンが得られ,ストロン長(10.31±4.07 cm)も最大であった. GA3では腋芽の伸長や,ストロンが細くなるなどの形態異常が生じた.培養ストロンの増殖に対するNAAの効果を調べるため,ストロン切片(2-3 cm長,10切片/培養瓶,2 g新鮮重)を前述と同様に3%ショ糖及びNAA (0, 0.01, 0.1, 1,又は10μM)含有MS液体培地に植付け,同様に培養した.培養2週間後,同条件の新しい培地に切片を移植し,更に2週間後(合計4週間後)に観察した.その結果, 0.01 μM NAA (12.94±0.40 g 新鮮重/培養瓶)が最良で,増殖効率は6.58倍であり,旺盛に生育した.ストロンの増殖に対するショ糖濃度の効果を調べるため,ストロン切片(2-3 cm長,10切片/培養瓶,2 g新鮮重)を前述と同様に,植物ホルモン無添加,ショ糖濃度(1, 3, 6, 及び9%)のMS液体培地に植付け,同様に培養した.培養2週間後,同条件の新しい培地に切片を移植し,更に2週間後(合計4週間後)に観察した.その結果,6%ショ糖が最良(12.82±0.17 g 新鮮重/培養瓶)で,増殖効率は6.34倍であった.このショ糖濃度でのストロン増殖効果は, 0.01μM NAAの有無に影響を受けなかった
発根発根とシュート再分化に対するオーキシンの効果を調べるため,1腋芽を含むストロン切片(約5 cm長)を3%ショ糖,0.2%ゲルライト及び0.01又は0.1μMの2,4-D, IAA,IBAあるいはNAAを含むMS培地(80 ml/培養ボックス,80.5×80.5×100 mm, Technopot® Sumitomo Bakelite, Co. Ltd. Tokyo, Japan)に植付け, 23℃,16時間/日照明下(40μ mol photons m-2s-1)で培養した.4週間後,高頻度の発根(87%)が,NAA (0.01と0.1μM),IBA (0.01と0.1μM)及び植物ホルモン無添加培地で観察された.同条件では,根及びシュートの伸長が旺盛であった.概してシュートと根の発育は,0.01μM NAAが最も旺盛であった.植物ホルモン無添加培地で幼植物の培養を継続すると徐々に生育とシュート分化が不良になった.従って,植物体再分化のための不定根形成とシュートの発育には, 0.01μM NAAが最適であった.植物体再分化の材料とした培養ストロンの色は圃場栽培植物のストロンと同様に,青白または薄い茶であった.
馴化条件馴化後,再分化植物は,23℃,16時間/日照明下(蛍光管:40 μmol photons m-2s-1 )で栽培した.培養で得た再分化植物は容易に鉢栽培に順応した.
鉢上げ・定植
栽培条件
再生植物体の形質再分化植物体は旺盛に生育し,圃場栽培植物と同様に根が肥大した.6ヶ月間栽培した再分化植物体の根のグリチルリチン含量を,日本薬局方に準じて定量したところ,6ヶ月間の短い栽培期間にも関わらず,グリチルリチンの蓄積(7,600 μgg-1 乾燥重量)が確認された.
分析した成分グリチルリチン
成分の抽出法再分化植物体の根中のグリチルリチン:50℃で12時間乾燥させた根を粉砕し,その約200 mgに5 mlの50%エタノールを加え,室温で30分間,さらに超音波洗浄機で10分間抽出した.この操作を2回繰り返し,最終的な抽出液容量を10 mlとしその20μlをHPLC分析に用いた.

培養ストロン中のトリテルペン及びステロール:凍結乾燥した植物材料にクロロフォルム-メタノール混液(1:1)を加えて2回抽出し,さらにメタノール-水混液(1:1)を加えて2回抽出した(80℃).抽出液に内部標準物質
[25,26,26,26,27,27,27-2H7]cholesterol (98% D, Cambridge Isotope Laboratories, Inc., Andover, MA, USA), [3,28,28,28-2H4] β-amyrin, [28,28,28-2H3]α-amyrin,[28,28,28-2H3] lupeol (Ohyama et al. 2007) を加え,polyamide cartridge column (Discavery® DPA-6S, 500 mg, SUPELCO)に負荷し,メタノール,50%メタノール,水及び1%アンモニア水で連続して溶出させた.真空下でメタノール溶出物の溶媒を留去し,残査をヘキサン-酢酸エチル(3:1)で2回展開させたsilica gel preparative TLC platesで分離させ,トリテルペノール,ステロール,オレアノール酸及びベツリン酸分画を得た.それぞれの分画をN-メチル-N-トリメチルシリルトリフルオロアセトアミドでトリメチルシリル化(80℃,30分間)し,GC/MSで分析した.
分析法再分化植物体の根中のグリチルリチン:HPLC条件 HPLC :LC-2000 Plus system (JASCO, Tokyo, Japan),カラム TSKgel ODS-80TS QA column (150×4.6 mm, TOSOH),カラム温度30℃,移動相 2.1% (v/v) 酢酸-アセトニトリル (3 : 2),流速 0.6 ml min-1,検出254 nm. n=3.

培養ストロン中のトリテルペン及びステロール:ステロールとトリテルペノールの定量は,前報(Ohyama et al. 2007)に従った.オレアノール酸とベツリン酸はr2>0.999の検量線を用いて定量した(TMS誘導体とのm/z 482のピーク面積比を使用).1%アンモニア水溶出物は乾燥後,同定のため,LC/MS(mass spectrometer:QSTAR Pulsar, API,HPLC:1100 series, Agilent Technologies)で分析した.グリチルリチン同定のため,LC/MS分析は,2つの溶媒系でネガティブイオンスキャン及びポジティブイオンスキャンの両方を行った.HPLC条件は,カラム SenshuPak ODS-II 25 cm×0.2 mm column,流速0.2 ml min-1 ,移動相 システム1: 溶媒 A:0.1% (w/v) 酢酸/アセトニトリル;溶媒B:0.1% (w/v) 酢酸/水,溶媒グラジェント 80% B 2分間,80-5% B 10分間,5% B 8分間,初期条件への平衡化 5分間,カラム温度35℃;システム2 :溶媒A:0.1% (w/v) 酢酸/メタノール,他の条件はシステム1と同様とした.質量分析機は,グリチルリチン標品を用いてTOF/MSスキャンモード,エレクトロスプレイイオン化で[M H] ([M H]イオンが容易に検出されるように最適化した.プロダクトイオンスキャン(MS/MS)分析は,m/z 821.3 (823.3)をスキャンして実施した.グリチルリチンの定量は,プロダクトイオンスキャンによる m/z 821.3 のピーク面積比による標準化合物の検量線により計算した( r2>0.999).
備考